工場夜景の撮り方について語ってみた その①
今週からは連続で工場夜景の撮り方について説明していきます。
工場夜景の美しさ
夜中に煌々と光る無数のライト、立ち上がる煙。そして鳴り響く重低音。
我々が寝静まった後も止まらず昼夜関係なく、何かを飲み込んではまた別の何か生産し続けている…
工場夜景の魅力は、工場の人工物としての無機的な冷たさや美しさと、まるで生きているかのような有機的な怪しさや迫力、美しさが混じり合った部分にあると私は考えています。
今回はそんな夜の工場の写真を綺麗に撮るにはどうすればよいか?に迫りたいと思います。
ちなみにこの記事を書くまで実はろくに考えもしなかったのですが、無数についているライトにはちゃんと意味があるようです。
- 夜勤に作業する方々の視認性の確保のため
- 夜間に飛行している航空機などに対し、危険な場所であると知らせるため
- 夜間に液漏れなどを視認するため
- 防犯カメラの視認性を上げるため
などなど。 作業や防犯、安全確保のために点けられた灯りがイルミネーション的な感覚で楽しまれているというのは面白いところですね。
って、それは都市部の夜景(社畜が生み出す光)も同じか。。みんなクリスマス・イヴの夜景には敬意を払おうな!!
何はともあれ下調べ
全ての写真撮影において言えることですが、下調べをしておくに越したことはないです。
工場夜景に関しては、検索すると親切にも撮影スポットをまとめたサイトも出てきます。 yakei.tw
「工場夜景ガイド」にはこの画角で撮るとこんな写真が撮れるぞということまで書いてありまず(正直言って親切すぎる)。
撮影スポットの情報がここまで公開されているのはすごいことだと思います。
というのも、本来撮影スポットを公開するメリットというのは、公開する本人にはほとんど存在しないため。
なぜなら、公開してしまうと人が集まりすぎたり、私有地に入り込んだりして近隣住民に迷惑をかけるといった公害が発生し、結果として立ち入り禁止になってしまい、二度とそこで写真を撮れなくなってしまうこともしばしば。
北海道の美瑛なんか有名ですし(公式サイトに書いてあるレベル)、似たような話が定期的にTwitterでもよく話題になっていますよね。 town.biei.hokkaido.jp
自分がカメラマンとしてマナーを守っていても、他の誰かが守らないと自分まで割りを食ってしまう可能性があるというわけです。このような事態になるのを避けるためにも、なるべく公開はしたくないですよね。
また、カメラマンにとって「撮影スポットを公開する」ことは自らの手の内をバラしてしまう行為でもあります。
スポットを公開するということは、たくさんの人がそのスポットで写真を撮るようになるということ。
ということは、相対的に自分で撮影した写真の価値が下がってしまうということを意味しています。
これはプロにとっては致命的ですよね。
とはいえ、プロの皆さんもスポットだけではなく経験を含めた写真の腕で勝負しているわけですから、スポットを公開しただけで差が縮まるといわけではないのですが、その可能性を高めてしまうという意味では間違っていないのかなと。
…なんか話が逸れましたね?話がよく逸れるのはこのブログの特徴です!
別に記事の内容を水増ししているわけじゃあないんだからね!勘違いしないでよね!
工場夜景に関しては色々な情報が公開されているわけですが、理由はこんなところでしょうか?
- もはや撮り尽くされたスポットのため新規性がない
- そもそも工場の周りには民家がない
とはいえ、被写体である工場に近づけず、離れたところが撮影地点になるようなケースでは近隣に迷惑がかかる可能性もあるため、 時間に注意するようにと注意書きがありますね。したがって一概に2.が正しいとも言えないのですが。。
ともかく、幸運にも撮影スポットが公開されているのが工場夜景撮影というジャンル。
これは非常に助かるので、ぜひ工場夜景を撮りに行く方はまず「工場夜景ガイド」で予習してから撮影に行きましょう。
今回はここまで。 次回は撮影に使用する機材について説明します。
ライブハウスでFor Tracy Hydeを撮影してきた 〜ライブハウスで明るく綺麗に撮影する方法〜 その④(最終回)
今回が最終回となります。
これまでの3回で説明した内容を振り返ってみましょう。
ライブハウスは暗いので、
ただしF値を小さくすると被写界深度(ピントの合う範囲)が浅く(狭く)なり、ライブのような被写体がよく動く環境では写真がボケてしまう。なので、
- 置きピンしてから連射する(数撃ちゃ当たる作戦)ことでピントの合った一枚を撮影する。
また、被写体がよく動くライブハウスでは、シャッタースピードが遅いと写真がブレてしまうため、
- シャッタースピードをなるべく速くすることでブレを軽減する。
しかし、シャッタースピードを速くするということは、シャッターを開けている時間を短くすることになるので、光の量が減ってしまう。
F値を下げて対応したいところですが、既にF値を限界まで下げている状態。もうこれ以上F値を下げることはできません。 そんなときどうやって対応するか?というのが今回のメインテーマになります。
ISO感度を上げる
のっけから答えを言ってしまいます。 前回紹介した露出の三要素、覚えていますでしょうか?
ですね。
このパラメータのうち、ISO感度を上げると写真は明るく、下げると写真は暗くなります。
したがって、F値を上げてもカバーできない暗さについてはISOを上げていけ、というのがアンサーになるわけですが。。 実はこれ、一筋縄ではいきません。落とし穴があります。
ISO感度を上げるとノイズが出る
何が落とし穴になるかというと、ISO感度を上げるとノイズが出てしまい、写真の鮮明さが失われてしまいます。 つまり、写真が劣化してしまうというわけです。
さて、口でノイズと言ってもわかりにくいと思うのでどのような影響が出るかわかりにくいので、手っ取り早く写真で見てみましょう。
絞り優先オートにてF2.8, ISO100で撮影した写真。シャッタースピードはオートで1/40秒に設定された。
絞り優先オートにてF2.8, ISO25600で撮影した写真。シャッタースピードはオートで6秒に設定された。
一見わかりにくいですが、ISO25600で撮影した写真の右上あたりにザラザラとした粒子が混じっているのがわかると思います。 これがノイズです。
ISO100の方は背景がとろけるような綺麗なボケになっていますが、ISO25600の背景はざらざらとしています。
チョコボの毛並みがノイズによって全て潰れてしまい、色と明暗の違いくらいしかわかりません。
ついでにシャッタースピードにも注目してください。 ISO100の方が240倍もシャッタースピードが遅くなっていますよね?(6:1/40=250:1)
これは、ISO感度が低い(つまり写真が暗くなる)ため、 カメラのオート機能がよきにはからって適正露出(目で見て自然な明るさ)を出すためにシャッタースピードを遅くしてより多くの光を取り込もうとしているということになります。
デジタルカメラにはISOもオートで設定するモードがあります。 そのモードに設定して暗所で適当に撮影するとISOが自分の意志とは無関係に高めに設定されてしまうこともあり、結果としてノイズだらけの写真が撮れてしまいます。
せっかく一眼を使っているのに、ノイズだらけの写真を撮ってしまっては勿体無いです。 ぜひともそのモードはオフにして、ISOを自分で設定できるようにしてください。
ちなみにこのシャッタースピード(6秒)だと確実に手持ちではブレるので、作例は三脚に取り付けて撮影しています。
逆にISO100にてシャッタースピード1/40秒で撮影したらどのような絵になるでしょうか? こんな感じです。
え?なにこれ?って感じですよね。暗くて殆ど何も見えません。
ISOが低い、かつシャッタースピードも速い(1/40秒)状態だと、F値が2.8(このレンズでは最低)でもこんなに暗くなってしまいます。
先程の写真では6秒もシャッタースピードがあったため、その分多くの光を取り込めたということになります。
というわけで、暗所でシャッタースピードを速くしたい場合はノイズが目立たない程度の適切なISO感度を設定する必要があるということになります。
適切なISO感度とは?
これはとても難しいですね。 というのも、カメラによってISO感度を上げた時のノイズの出にくさ、つまり「高感度耐性」が異なるからです。
世の中には高感度での撮影に特化した機種も存在します。 kakaku.com
というわけで、どこまでISO感度を上げられるか?というのは公式サイトに載っているわけでもなく万人に明確な答えがあるわけでもなく感覚的な部分が大きいです。
私の実感としては、そのカメラを使いながら掴んでいくしかない部分になる。。という曖昧な答えしか今のところは出せていないです。
とはいえ何らかの指標は出す必要があるため、私の普段の設定を紹介します。
ズバリ、ISOは3200まで。この写真もISO3200で撮影しています。 しかしこの設定は光が十分ではない上にシャッタースピードを速くしなければいけないライブハウス撮影のみです。 (とはいえこの写真もよく見ると結構ノイズが出てしまっており、スモークが出てるせいでなんとか誤魔化せている感はある)
普段の手持ち撮影はもっぱらISO400~800に設定しています。ブレなどはなるべくホールドや本体の手ぶれ補正でカバーしているというわけですね。
また三脚を使った静物・夜景撮影などではこちらの動きと被写体自体の動きを気にする必要がないため、ISO100に設定して最高画質を目指して撮影する、というように使い分けています。
私のカメラは特別に高感度耐性が高いわけではないので他の機種でも通用する値なのかな。。と思いますが、ぜひ自分のカメラでISOを変えて撮影してみて、どこまでが許容範囲なのか見極めて使っていってほしいです。
敢えてノイズを出す
これは番外編ですが、アレだけ抑えろと言ったノイズを敢えて出していくことで別の表現として昇華させようという話です。
例えばこの写真、ノイズによってレトロな雰囲気が出て味な写真になっていると思いませんか?
これはISO感度を上げて撮影したのではなく、あとで現像する際にノイズのような粒子効果を上乗せしています。 本末転倒な気もしますが表現方法としてはアリだと思います。
何度も言っていますが、大事なのはその表現で何を伝えたいか?です。
まとめ
全4回に渡ってお届けしてきたライブハウス撮影講座、いかがだったでしょうか?
内容もまとまりきれてなくて実に読みにくかったと思いますが、最後にもう一回おさらいしておきましょう。
ライブハウスは暗いので、
ただしF値を小さくすると被写界深度(ピントの合う範囲)が浅く(狭く)なり、ライブのような被写体がよく動く環境では写真がボケてしまう。なので、
- 置きピンしてから連射する(数撃ちゃ当たる作戦)ことでピントの合った一枚を撮影する。
また、被写体がよく動くライブハウスでは、シャッタースピードが遅いと写真がブレてしまうため、
- シャッタースピードをなるべく速くすることでブレを軽減する。
しかし、シャッタースピードを速くするということは、シャッターを開けている時間を短くすることになるので、光の量が減ってしまう。そこで、
- ノイズが目立たない程度にISO感度を設定して撮影する。
ということになりますが、ちょっと考えること多すぎない?と思ったアナタ。アナタは正しい。
私はライブ撮影時にこんな感じで撮影パラメータを決めています。
高速連射モードに設定
カメラを絞り優先オートに設定
F値をそのレンズで設定できる最低値に設定(絞り優先オートはF値を決めるとカメラが勝手にシャッタースピードを決めるので、ここでシャッタースピードも決まる)
ISOを800ぐらいに設定
置きピンして連射
出来上がりの写真が暗いもしくはブレているなら、ISO感度を1段上げて(初回は 800 -> 1600)もう一度5.から繰り返し
簡単ですよね?
おわりに
ここまで読んできた方にはわかると思うのですが、カメラってちゃんと撮ろうとするとものすごく考えることが多いのです。
でもそこで手を止めないで欲しいです、
ちょっと極端な言い方になりますが、カメラの仕組みを正しく理解し、自分の意思でパラメータを設定して撮影して初めてデジタルカメラの本当の力を発揮できると私は思います。 逆にそうでなければスマートフォンのカメラで十分だと思うのです。
これはカメラを手にしたばかりの方にはとても難しいことだと思います。私もかつてはそうでした。
しかしそういった方々にも素敵な写真を撮ってほしい。そしてカメラを、写真をもっと好きになってほしい。
その想いからカメラ講座の記事を書き続けているというわけです。
これからもよろしくお願いいたします。
最後に。今回写真を撮影させてくださったフォトハイの皆さん、本当にありがとうございました。
何枚か私のお気に入りの写真を貼らせて頂いて仕舞いにします。
ライブハウスでFor Tracy Hydeを撮影してきた 〜ライブハウスで明るく綺麗に撮影する方法〜 その③
前回の最後に、ライブハウスにて綺麗な写真を撮影するにはまだまだ足りない要素があると言いました。 今回はそのテクニックについて解説していきます。
おさらいすると、ライブハウス撮影の難しさは「暗さ」と「被写体が動く」ことにあります。
これまでの記事では、そういった環境で明るく綺麗に撮影するには以下を実施する必要があると述べました。
- F値をなるべく小さくし、カメラ内部に光を多く取り込めるようにする(最小F値が低いレンズだとなお良し)
- F値を小さくすると被写界深度(ピントの合う範囲)が浅く(狭く)なるため、置きピンしてから連射する(数撃ちゃ当たる作戦)ことでピントの合った一枚を撮影する
しかしこれだけでは、以下のような写真が撮れてしまうことがあります。
所謂ブレという現象です。
ブレ
ブレには2種類あります。
- 手ブレ: 撮影時に撮影者が動くことによって発生するブレ。手ぶれ補正機能の利用またはしっかりとカメラを固定する(脇を締めてホールドする、三脚を利用するなど)ことである程度抑制可能。
- 被写体の動きによるブレ: 被写体が激しく動くことによって発生するブレ。カメラの設定によってある程度抑制可能。
1.は撮影の瞬間にカメラをしっかりと固定することである程度回避可能ですが、人間は生き物であるため完全に静止することはできません。
止まっているつもりでも心臓は脈打っているし、呼吸するから胸は上下するし、重いカメラを持つ手は常に小刻みに震えています。
また、仮に手ブレをどうにかできたとしても「被写体の動きによるブレ」は自分ではどうにもなりません。
以下ではこのブレをどうやって抑制していくか、その方法について説明します。
ブレを抑制する方法①: 被写体の動きが小さいタイミングを狙う
当たり前の話ですが、被写体の動きが激しくないときにシャッターボタンを押して撮影された写真には殆どブレが出ません。
例えばボーカルがマイクに向かって歌っている状態など、(見た目)ほぼ静止しているような状態ですね。
とはいえ、自分の好きなタイミングで被写体に止まってもらうことはほぼほぼ不可能ですし、そんなことお願いするのは本末転倒というか失礼。 むしろ動きのある中での一瞬を撮りたい場合はこの方法では実現できません。
ブレを抑制する方法②: シャッタースピードを速くする
これが今回の一番重要なポイントです。
被写体の動きによるブレが出てしまう原因は、シャッタースピードが遅いため。これが全てです。
シャッタースピードとは?
ここでカメラの露出設定のうち最も重要なパラメータのうちの一つである「シャッタースピード」について説明します。
以下のスライドにもあるように、露出とはすなわちカメラの撮像素子に対して光を照射することを指します。
この「露出」方法によって撮影される写真は千変万化し、カメラにはその「露出」方法を制御する重要なパラメータがいくつか存在します。
それが、
の3つです。
F値はすでに以下の記事で詳しく説明しています。
ついに今回はもう一つであるシャッタースピードについて説明する時がきました(本当は別の記事で説明する予定だった)。
シャッタースピードとはすなわち「撮像素子を露出させる時間」のことです。
上記のカメラの断面図には描かれていませんが、撮像素子とレンズの間には光を遮る板が存在します。 この板が所謂シャッターです。
撮影者がシャッターボタンを押すことによってシャッターが開いて撮像素子が露出し、再び閉じることによって露出が完了します。
露出時に外部から撮像素子に照射された光によって1枚の写真データが生成されます。
つまり、このシャッターが開いてから閉じるまでの時間が「シャッタースピード」というわけです。
シャッタースピードが遅い、つまり長いとどうなるか?ここまで読んできた皆さんならわかるのではないでしょうか。 シャッタースピードが長いということは、シャッターが開いてから閉じるまでの時間が長い。
つまり、撮像素子が露出されている時間が長いということになります。
もうわかりましたよね?シャッタースピードが長くなるほど、多くの光が取り込めるようになるのです。
え、じゃあ暗いところなら尚更遅くしたほうがええやん!と思いがちなのですが。。。 というか、実際オートモードだと暗いところではカメラはシャッタースピードを遅く設定します。
しかしここで思い出してください。シャッタースピードを遅くすると、ブレてしまうのです。 ここからはそのメカニズムについて説明していきます。
例えばシャッタースピードが0.5秒になっている状態を例に話を進めましょう。 これは、ライブハウス程度の暗さでオートモードに設定した際、容易にカメラによって勝手に設定される値です。
例えば陸上のウサイン・ボルト選手は100mを9秒58で走れる記録の持ち主です。 0.5秒でどのくらい進んでいるかというと、(100/9.58)*0.5≒5.23mも移動することになります。 0.5秒で5mは凄まじいスピードですよね。
では0.5秒で5m移動するウサイン・ボルト選手を、シャッタースピードを0.5秒にした固定カメラで撮影しようとするとどうなるか。
俯瞰を図で表現してみました。
高速で動く点ボ…じゃなかった、ウサイン・ボルト選手は、上図のように、固定されたカメラの前をシャッターが開いてから閉じるまでに5m進みます。 したがって、ウサイン・ボルト選手が左から右に移動する様が残像のように写真に写ってしまいます。
これがブレの正体です。
ここでシャッタースピードを1/1000秒にしたときのことを考えてみましょう。
ウサイン・ボルト選手が1/1000秒間に移動可能な距離は0.01m、つまり1cmとなります。
故に残像は1cmの長さしか発生しないため、写真で見ても殆ど目立たなくなるわけです。
つまり、シャッタースピードを速くすることによって被写体が動いたときのブレが小さくなるということになります。
ちなみに、以下の写真ではシャッタースピード1/30秒かつ手ぶれ補正機能併用にて撮影しています。 これは殆ど動きがない状態で撮影したためウサイン・ボルト選手級のシャッタースピードは必要ありませんが、激しく動くシーンを撮る場合は必要になってきます。
一方で、敢えてブレを表現として残し、ライブの臨場感を出していくというスタイルもアリです。 今回は敢えて「ブレずに撮る」ことを焦点に当てて説明しているに過ぎないのです。
さて、今回はシャッタースピードを速くするとブレを軽減できることについて説明しました。
一方で途中で言及したように、シャッタースピードを速くすると露出時間が減るため、光を多く取り込めなくなってしまうことについて言及したと思います。
次回はそういった問題についてどのように対応しているか説明します。
おそらく次回が最後かな?
ライブハウスでFor Tracy Hydeを撮影してきた 〜ライブハウスで明るく綺麗に撮影する方法〜 その②
前回
今回はライブハウスでの撮影テクニックについて説明していきますが、その前にライブハウス撮影に難しさについて説明したいと思います。
正直言って、ライブハウスの撮影は難しいです。
わざわざ記事にするのも自分で経験してそう感じたためです。
何故難しいかの結論を言ってしまうと「暗い」上に「被写体が動く」から。 今回はこれらの問題に対してどのように対応していくか解説していきます。
暗い
ライブ撮影を難しくする一番の要因はこれです。暗い。 写真撮影にとって一番重要なのは光です。
以下でも解説している通りです。
デジタルカメラにおいて、写真データはレンズを通した光がボディ内部の撮像素子に当たることで作成されます。
ゆえに、撮像素子に当たる光の量が少ないほど写真は暗くなってしまいます。
ライブハウスのステージはスポットライトで照らされるため明るいと思いきや、意外と暗いです。 比較するとこんな感じ。
晴天の屋外(日中) > 曇天の屋外(日中) > 蛍光灯が付いた屋内 > ライブハウス > 屋外(夜)
というわけで、結構暗いので撮影される写真もおのずと暗くなってしまいます。
単に暗いだけでなく、スポットライトの向きによっては逆光となり、アーティストの姿が真っ黒になってしまうこともしばしば(ライブ開始前のUnderwater Girl)。
夜明け前を連想する青一色、まさに何かが始まる「黎明」な雰囲気。 アーティストが自然体な一瞬を捉えているようにも見え、故に個人的に大好きな写真です。 しかし観てわかるようにやはりライブハウスは暗いですよね。
ではそういった環境でも明るく綺麗な写真を撮るためにはどうすればいいのか。 幸いデジタルカメラには暗い場所でも明るく撮れる機能があるので、順に説明していきます。
ライブハウスで綺麗に撮る方法①: F値を小さくする
以前F値について説明する記事を書きましたが、そこでは全く触れなかった重要な性質を説明します。 weekendcycler.hateblo.jp
上記の記事ではF値を小さくすると被写界深度が浅くなる、つまりピントを合わせた面の前後がボケやすくなると言いました。
それだけではなく、実はF値は「写真の明るさ」にも大きく影響します。
結論から言うと、F値を小さくすると写真が明るくなります。
詳しいメカニズムが省略しますが(実はここもかなり重要なのですが、、、語るのはまたの機会に)、レンズには絞り羽根という通過する光の量を調整するための機構があります。
この写真の左のレンズに注目してください。何故紅茶と一緒に撮影したかはつっこまないでください(わかる人にはわかる、今となっては懐かしい今日の紅茶シリーズ)。 レンズのガラスの内側に灰色の薄い板のようなものが重なっているのがわかると思います。これが絞り羽根です。
F値を小さくすると絞り羽根が開いて光の通過量が増え、 反対にF値を大きくすると絞り羽根が閉じて光の通過量が減ります。
写真で見ると一目瞭然、F値が1.8(最小)のときは絞り羽根が殆ど見えないぐらい引っ込んでおり、この状態が最も多くの光を通します。
F値最小ではレンズのガラス面が全開になっているため、このようなF値最小の状態を「開放」などと呼びます。
また最小のF値はレンズによって異なり、例えばこのレンズ (55mm単焦点レンズ)の最小F値はF1.8となります。
したがってF値が小さいほど明るい写真が撮れるレンズであり、その分値段も高くなります。
目安としては単焦点であればF値2.0以下、ズームレンズであればF2.8以上F4.0未満であればかなり明るい(良い)レンズと言えるでしょう(単焦点やズーム、焦点距離や画角についても当ブログでは全く解説していないため、そのうちやらないとイカンな。。)。
以上から、ライブハウスのような暗い場所で明るい写真を撮るには以下を満たす必要があります。
前回紹介した私の使用したレンズは最小F値がF2.8の望遠ズームレンズ。
ズームレンズの中では最高に明るいレンズということになります(つまり高い)。 これは別にドヤっているわけではなく、クライアントに良い写真だと思ってもらえるよう自分なりに死力を尽くした結果です。 ちなみにブリットポップもこれで撮影してます。私はU-1さんには敬意を払いまくっているのだよ!
ライブハウスで綺麗に撮る方法②: 置きピン+連射
F値を小さくする=明るい写真が撮影できることについて説明しました。 しかしここには大きな落とし穴があるのです。
忘れてはならないF値の重要な性質、それはF値を小さくするとボケる範囲が広がるということ。 そしてライブハウス撮影(というかライブ)のもう一つの問題点、それは「被写体、つまりアーティストが激しく動く」ということ。
これが意味するところは一つ、F値が小さい状態でライブハウスの撮影をすると「ピントがめちゃくちゃ合いにくい」ということ。
被写界深度が浅いため、ピントを合わせて撮ったつもりがシャッターを切った瞬間にアーティストが動いてピント面から外れ、結果としてボケた写真になってしまうという問題があります。
図にするとこんな感じ。
シャッターを切る直前にはピントが合っていたのに、シャッターボタンを押してからシャッターが切れるまでの間にピントが合う面から被写体がズレてしまい、ボケた写真になってしまう。
重要な部分(人間でいうと顔、もっと言うと瞳)にピントが合ってさえすれば、それを観る人は他のボケたところは案外気にならないものです。
したがって、写真撮影においては(ライブ撮影に関わらず)いかに被写体の重要な部分にしっかりとピントを合わせるかが大事になってきます。
それを解決してくれるのが「置きピン」と「連射」です。
「連射」とは、シャッターボタンを押している間写真を連続で取り続けてくれる機能です。 最近はiPhoneのシュババババババみたいな連射音を耳にする機会も多いので、だいぶ身近になったのだと思います。
そして「置きピン」、こちらは聞き慣れないワードだと思います。 「置きピン」とは、「ピント」を「置いておく」こと。
もっと言うと、被写体が来る場所を予想して、その場所にMF(マニュアルフォーカス)でピントを合わせておく技術のことです。 したがって、「置きピン」しておいて、被写体が通り過ぎる瞬間を狙ってシャッターを切れば、見事ピントの合った写真が撮れるわけです。
いやいやちょっと待てよと。そもそも被写体がちょうどその場所に来る一瞬のタイミングでピントが合わせられるわけないだろと。
その通りです。そこで「置きピン」と前述した「連射」を組み合わせるわけです。
やり方は非常に簡単。
「置きピン」でピントを合わせておいて、後はひたすら「連射する」。つまり「数撃ちゃ当たる」作戦です。
例えば、自転車レースやマラソンなどで走っている人を前から撮るケースを例に上げてみましょう。 この場合、被写体である選手は手前から自分に向かって近づいてくることになります。
なので、被写体が自分より十分遠い位置にいるときに、シャッターを切りたい場所、つまり自分と被写体の間の任意の位置にMFでピントを合わせ(置きピンし)」、 「置きピン」した場所よりも少しだけ手前の位置に被写体が来たあたりから「連射」を開始し、 「置きピン」した場所よりも少しだけ自分側に近づいたあたりで「連射」を止める。
絵で表現するとこんな感じ。
このようにすると、撮影された何枚かの写真のうち1枚くらいはしっかりと合うべきとこにピントが合った写真が含まれている、というわけです。 このときカメラはしっかりと固定するように。写真がブレてしまうため。
さて、このように思われた方も多いのではないでしょうか?
「そもそもライブ撮影じゃどこにアーティストが動くか予測できない…。」
これもまた然り。私がライブ撮影で置きピンするときは、とりあえず被写体にピントを合わせた状態から連射を始めます。 割と前後に繰り返し動くことも多いため、動きがそこまで大きくないタイミングを狙えば、被写界深度が浅かったとしてもこの方法で大体上手くいきます。 というか、動きの少ない瞬間をなるべく狙って撮っています。
ぜひ動体撮影の際は「置きピン」と「連射」を試してみてください。
我々カメラマン(というほどの者でもないけど)が撮った写真は、大抵ピントが合うべきところにしっかり合っていますよね。 今回説明したように、それは数撃ちゃ当たるによって撮られた大量の写真から厳選したものに過ぎないわけです。 今回のフォトハイの撮影でも、たった30分間に連射をし続けてゆうに500枚を超える撮影をしています。 しかしそのうち見せられると思ったのはたった20枚程度。
そんなほんの一握りの奇跡を願ってシャッターを切り続ける、それがカメラの醍醐味とも言えると思います。
そしてその一握りを他の誰かに喜んでもらえたときこそ嬉しい時はありません。 皆さんもぜひそんな一枚を撮ってみてください。
さて、今回はここまで。
今回何枚か写真を乗せましたが、実は今日紹介したテクニックだけではまだライブハウスで綺麗な写真を撮るのに十分とは言えません。 次回も引き続き説明していきたいと思います。
ライブハウスでFor Tracy Hydeを撮影してきた 〜ライブハウスで明るく綺麗に撮影する方法〜 その①
昨年For Tracy Hyde(以下フォトハイ)というバンドを撮影する機会に恵まれた。 写真はVocalのEurekaさん。
私は楽曲を語る語彙力を持ち合わせていないが、曲を聴いて思い浮かんだ単語は「透明」「煌めき」「スピード感」。
記憶から浮かんだイメージは、ロードバイクで走っているときに移りゆく、目の前を通り過ぎていく世界、視界の片隅に映る光や水面の煌めき。そんな場面が次々と目まぐるしく移り変わっていくようなイメージ。
この機会をいただくに至った経緯については最早忘れかけていたのだが、記事のネタを考えているときに段々と思い出してきた。
そうだ、この写真だ。 この御仁はフォトハイのギターであるU-1さんである。なんと柔らかな表情であろうか。ちなみに写真のタイトルはブリットポップ。
私とU-1さんの出会いはウン年前(ゴメン覚えてない)、王ドロボウJINGという、大昔にコミックボンボンとマガジンZ(THE KING OF BANDIT JING)で連載していた伝説的なコミックを通じてネット上で知り合ったのだった。
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今回はこのブリットポップを本人の許可なく私が発表資料で利用、つまり無断転載したことに対し私が謝罪し「なんなら今度撮りますよ!」みたいなことを言ったことがキッカケであった。
(ちなみに本人曰くこれもフリー素材なので全く問題なかったとのこと。)
正直、かなり差し出がましいお願いだったと思う。
私はライブでの撮影経験はほぼ皆無であったし、既にお付きのカメラマンがいるような状態(たぶん)でどこの馬の骨ともわからない私を快く受け入れてくださったフォトハイの皆様方には感謝しかない。
そして今回非常に嬉しいと思ったのは、
「Weekendcyclerさんに頼むってことはWeekendcyclerさんの写真が好きってことだし最終的に自分がいいと思う感性は大切にしたほうがいいですね!凝り固まらずに気楽にやっていいと思います!」
とU-1さんに言っていただけたこと。
この言葉を受けて余計凝り固まって挑んだ本番だったわけだが、私としてはそこで非常に良い経験をさせていただいた。
なので今回はそれを「ライブハウスにおける撮影方法」というテーマで数回に分けてここに書き残しておこうと思った次第である。
というわけでポエムっぽい雰囲気でスタートした今回の記事だが、ここからは打って変わって撮影テクニックの話になる。
ちなみに、今回はこの記事を読んだ方がすぐに撮影に活かせるように手段ベースで説明していく。
撮影ポジション
舞台は高円寺Highというライブハウス。
高円寺HighでPhotoを撮る。つまりPhotoHigh(フォトハイ)。なんたる偶然()
フロア全体の俯瞰図はこんな感じ
図の通り今回はステージ真ん前の柵の内側と観客席、2階の機材席?を行ったりきたりしながら撮影させてもらった。 ステージの横の長さは大体10mくらいだろうか。高さはしゃがんだ私がぎりぎり隠れるくらい。
柵の内側での撮影は主に右端と左端のみから実施した。理由は、望遠レンズ(遠くを切り取るレンズ)を持っていったがために、被写体であるバンドメンバーからある程度距離を取る必要があったため。
中心付近はボーカルに近づきすぎる立ち位置しか取れないのと、ライブを聴きにきている方々の邪魔になることが懸念されるため避けざるを得なかった一方で、端は観客席まで下がればある程度クリアランスを保つことができるため撮影に最適だった。
一方で真正面からの写真も撮影したかったため、必要に応じて観客席に移動して撮影した。
ちなみに2F機材席からは手持ちのレンズと私自身の撮影スキルの問題であまり良い構図で撮れなかったため、今回はその部分に関する説明は割愛する。
撮影機材
機材はレンズ+本体1セットのシンプルな構成。
レンズ
今回は大三元の望遠ズームレンズSEL70200GMを選択。
ソニー SONY ズームレンズ FE 70-200mm F2.8 GM OSS Eマウント35mmフルサイズ対応 SEL70200GM
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その他の理由は以下
- 個を美しく撮るということで、被写体が歪まない望遠レンズが最適(広角レンズは被写体が歪む)
- ライブハウスは暗いため、最低でもF2.8が下限の明るいレンズを選択したかった(本音を言えばF1.4に望遠単焦点を2台持ちぐらいで使いたかった)
- 撮影中にレンズを交換する手間を省きたい&幅広い焦点距離に対応したかったため、ズームレンズ1本に絞った
- 望遠域の明るい単焦点レンズを持っていなかった
このあたりの詳細については、これまでの記事では出てきていない撮影に重要な要素も多々入り込んでいるため、後ほど説明したい。
本体
sony a7iiを選択。というか選択するも何もこれしか持っていない。
ソニー SONY ミラーレス一眼 α7 II ボディ ILCE-7M2
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SDカード
東芝のSDカードを利用(容量32GB, 最大転送速度40MB/s)。
TOSHIBA SDHCカード 32GB Class10 UHS-I対応 (最大転送速度40MB/s) 5年保証 日本製 (国内正規品) SDAR40N32G
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- 発売日: 2015/04/01
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ある程度動体(動くもの)を撮影したことがある方ならこの選択肢は失敗であることがわかるだろう。
決して東芝のせいではない。この理由については後ほど書くことにする。
今回はここまで。 次回はこれらの機材を使って実際に撮影してみた感触と、ライブ撮影の要点について更に深掘りして説明していく。
厳冬期を乗り切るグッドデザインなサイクルウェアを買ってみた③
今回はCafé du CyclisteのBelgium Capについてレビューしていきます。 www.cafeducycliste.com 公式サイトによると"BELGIUM WINTER CYCLING CAP FOR COLDER WEATHER RIDING"、直訳すると「寒い日のライドための冬用ベルギーキャップ」。
ベルギーキャップを敢えて訳さなかったのは理由があります(このくだり前回もあったな)。
このCafé du CyclisteのBelgium Capのようにイヤーフラップ(耳あて)が付いたキャップはどうやらベルギーの伝統的なものらしく、画像検索するとちらほらヒット。 なお、Belgium Capで検索するとベルギーの国旗色のキャップばかり出てくる模様。
よってこのキャップ正式名称は不明。
ググって出てきたイヤーフラップ付きのキャップのが殆ど自転車用であることから、ベルギーのサイクリスト向けキャップで代々受け継がれてきたデザインなのかも。
カラーはGrey MelangeとRed Melangeの2色展開です。私が選んだのはGrey Melange、なんたって色が合わせやすいからね! www.cafeducycliste.com
どちらもやや淡い色をしていますね。このMelange(メランジェ)はフランス語で”混ぜたもの”という意味で、ドイツ語圏ではミルクを加えたコーヒー飲料を指す言葉のようです。
その背景を知ってからこのキャップを見てみると、確かにミルクコーヒーのように淡い、そして濃い色と薄い色が混じり合ったような色をしていることに気づきます。そしてそのせいか温かみも感じますね。
そしてブランド名は"Café" du Cycliste…なんだか全てが繋がったような気がしませんか? これを被ってコーヒースタンドに立ち寄って仲間と「今日はどこに走りに行く?」みたいな話をするところまで想像しました。実に良い冬だ(実際のところ最近は室内でローラーばかり)。
公式サイトの説明をまとめるとこんな感じです。
三層構造
内膜(Interior Membrane)は防風、耐水、通気性あり
外側(Outer Shell)はメリノ(ウール)混合のストレッチ素材
内側(Inside)はメッシュ
リブ編みのウール製イヤーバンドは上げ下げ可能
この訳し方でいいのかわかりませんが、おそらくOuter ShellとInsideに挟まれてInterior Membraneがあるという三層構造になっているのでしょう。外側 -> 内側 -> 内膜という順に見ていきましょう。
外側
外側はメリノウール配合のストレッチ素材になります。
メリノウールについては前回も説明しましたね。メリノ種という羊から取られる、非常に保温性と通気性が高い高級天然素材です。
それに加えてなんとこのメリノウール、伸縮性も兼ね備えているのです。この特色が、帽子というワンサイズで幅広い層に適合しなければいけないウェアに丁度よいのかもしれません。 頭がでかい日本人には嬉しいところ(ちなみに僕も例に漏れず頭はでかい。身長が高いのでごまかせている感はある。。)。
ちなみにRaphaのClassic Capはコットン(綿)製です。 www.rapha.cc こちらもデザインはかなり好み(MILANO ROMA COLLECTION)で素材の特性故に通気性が抜群で夏は最高なのですが、いかんせん生地が堅いため髪が伸びてくると頭がでかい属には厳しい。 そしてコットンは洗うと縮むので頭がでかい属はさらにキツい。
その点このBelgium Capは柔らかく包み込みつつもしっかりとホールドしてくれるので非常に良いです。 特に体が固まりやすい冬はこういった伸縮性の高い素材のウェアを選ぶと快適ですよね。
サイクルキャップ選びの際はぜひ素材にも着目していただきたいと思います。
内側
内側はメッシュ構造になっています。 夏のスポーツウェアによく利用される構造ですね。 特徴としては、吸水・発散性が非常に高いことが挙げられます。
地肌に近い層に配置することで、肌から出た汗をすばやく吸収し外側に発散させることができます。 これにより汗冷えや蒸れを防ぎ、常に内側をドライで快適に保つことができるというわけです。
内膜
さて、一見完璧な外側・内側かと思いきや実は気になる点が一つありました。
外側にメリノウール、内側はメッシュ構造を採用しているため、非常に「通気性が高い」んですね。 じゃあ風通しちゃうじゃん!寒いじゃん!冬なのに大丈夫?となるところ。
そこはしっかりと内膜でカバーしているのがこのキャップのミソでございます。
冒頭で記載したように、内膜が防風・耐水と通気性を備えています。
このように相反するような属性を同時に兼ね備えた素材になっていてホントかよと思ってしまうところですが、現実には似たような素材は存在しています。
かの有名なGORE-TEXですね。
GORE-TEXの2層目であるGORE-TEXメンブレンは「防水透湿膜」と言い、内部の水分を外に逃がしつつ外からの水気をシャットアウトするような構造になっています。 www.gore-tex.jp 詳細は不明ですがこのキャップの内幕にも似たような素材が使われているものと思われます。
つまりこの内膜は、内部からの水分は外に逃がしつつ、外からの水や風はしっかりと防ぐということ。
なので、内側のメッシュ素材によって素早く地肌から吸収・発散された汗を、透湿性の内膜を通って通気性の高いメリノウールの外側から逃がす一方、外側からの風や水は2層目の内幕でシャットアウトする。
絵で描くとこんな感じ。 よく考えられた構造ですよね。
サイクルウェアの着こなし(内側はメッシュのインナーを着る)でも同じようなことやったりするので割と当たり前の話なのかもしれませんが、こうやって紐解いて理解してみるとなかなか面白いなと。
イヤーフラップ
イヤーフラップはメリノウール製ということもあり伸縮性がかなり高いです。
そして通気性の高さ故に音も通りやすく、フラップを下げていても周囲の音は十分に聞こえるため、道路状況の把握にもほぼ差し支えなしと言っても良いでしょう。
サイトの説明にもある通り、フラップは状況に応じて上げることができます。
暑くなってきて耳だけ出したい、なんてときはこれで対応できます。
素材と洗濯表示
続いて素材です。
- Shell Fabric
おそらくイヤーフラップ、外側、および内膜の素材と思われます。理由はウールを含んでいるため。 Elastaneはポリウレタンのことです。VOLEROのサイクルウェアを紹介した際に、「ライクラ」という素材が出てきましたが、これもポリウレタン。 伸縮性に極めて優れ、混紡率が低くても(つまりライクラの比率が少なくても)特性を失わないという特徴を持つ繊維ですね。 実際にキャップの両端を持って引っ張ってみるとよく伸びますが、メリノウールだけでなくこいつも一役買っているということでしょうね。
- Lining
裏地(内側)はポリアミドです。ポリアミドは前回も出てきましたが、非常に吸収性の高い生地。 これをメッシュ構造にすることで更に内側の吸収性と発散性と高めているのだと思います。
洗濯表示としては30℃を限度として水洗いのみOK、アイロン、ドライクリーニングは不可。乾燥は自然乾燥のみOKですね。
実際に使ってみた感触
まだ5-10℃の温度域でしか試せていないのですが、比較的冬にしては暖かい場面でも熱くなりすぎることはなく、変に蒸れることもなく非常に快適でした。 また非常にカジュアルなデザインなので、そのまま飲食店に入っても(まぁ)問題ないかなと言ったところ。 (タイツ履いてる時点でアウトといえばアウトだけど)
より寒い気候での運用は追記していきたいと思います。
実用上の注意
Belgium Capを利用するにあたりいくつか気になる点もあるので書いておきます。
ヘルメットのサイズを選ぶ
Belgium Capをヘルメットの下に被る場合、ヘルメットのサイズを一段階上げる必要があるかもしれません。
三層からなる構造は上記で説明したように理論的には非常に素晴らしい性能を発揮してくれます。 が、いかんせん厚みが増すため、これまで持っていたヘルメットだとキツくなるor入らない可能性があります。
不適切な着用(しっかりと固定されていない、または締め付けすぎ)は思わぬ事故を招く場合があるので注意する必要があります。 所持しているヘルメットと地肌の間に空きに余裕があり、ダイヤルを何度か回して締めているようなケースでは問題ないと思います。
イヤーフラップを上げるにはヘルメットを脱ぐ必要がある
これは全ての耳あて付き冬用キャップに共通の事柄だと思いますが、イヤーフラップを上げる場合は一度ヘルメットの首元のバック具を外し、あご紐を開放orヘルメットを外す必要があります。
バックル自体ヘルメットを固定するためにキツめにしているはずなので、バックルを外さない状態ではイヤーフラップを動かす隙間が殆どないと思います。 ヘルメットを外さずにバックルを外しただけでも上げられないこともないですが、中途半端になるためにどうも気持ちが悪いです。
また、イヤーフラップを上げることでキャップ全体の横幅が増えるので、イヤーフラップを上げる運用で行く場合はそれも含めてヘルメットのサイズを選ぶ必要がありますね。
まとめ
いくつか懸念点はあるものの、Café du Cyclisteはデザインだけでなく機能性もしっかりと兼ね備えているウェアを生産しているということがよくわかりました。 主に実用感などまだまだレビューが足りていない部分がありますが、そのあたりは随時追記していきたいと思います。
厳冬期を乗り切るグッドデザインなサイクルウェアを買ってみた②
今回はCafé du CyclisteのALBERTINEジャケットについてレビューしていきます。 片仮名発音だとアルベルティーヌと読むらしいです(ちなみにALBERTINEの意味はググってもわからなかった。。誰か教えて)。
公式サイトのタイトルによると"WINDPROOF CYCLING JACKET WITH PRIMALOFT INSULATION"と書いてあり、「PRIMALOFTの断熱を備えた防風のサイクリングジャケット」ということになります。
"PRIMALOFT(プリマロフト)"は素材名なので敢えて略しませんでした。
こいつがどんなものかは後で詳しく説明したいと思います。
"INSULATION"は断熱という意味です。
簡単に言うと「保温」のことで、魔法瓶(今じゃ言い方的に古いかもしれないけど、保温機能のついた水筒のこと)のように、中の熱を逃さないことによって温度を保つような振る舞いを指します。
例えば魔法瓶は、熱を伝える媒体になる流体(空気)を排除する事で対流(熱の伝わり方の一つ)が起きないようにしているわけですが、 このジャケットも同様に内部の熱を逃さないような機能を持っているため、体温または運動によって発生した熱を外に逃さないことで内部の温度を保つような仕組みになっているということ。
そしてそこに一役買っているのがPRIMALOFTという素材というわけです。
最近はインシュレーション(インサレーション)をサイクルウェアでも多く聞くようになりましたね。Raphaも一年前くらいからインサレーションウェアを売っています。 www.rapha.cc
まずは全景を。前から見ると薄手のダウン(羽毛)ジャケットのように見えます(でも羽毛じゃないんだなぁ、これが)。
全体的にスリムなシルエットで、バタつくことはなさそうです。しっかりと手首は絞られています。 通常はこの上から冬用グローブをかぶせるので袖から風が入ることはないでしょう。
また、極めつけは袖が十分に長いこと。Mサイズですが、初号機と形容されたこともある私の腕にも十分な長さが確保されています。 日本ブランドじゃこうはいかない。さすが欧米。
自転車ウェアらしく前は短め、後ろは長めです。 見てわかるように、後ろはダウンというよりはふわふわした素材で作られていますね。
これがミソ。 このダウンぽい部分が完全防風のパネルになっている一方で、
黒いふわふわした部分は高い吸湿発散性を持つ天然のメリノウールのフリース生地を使っています。
メリノウールは保温性に優れるだけでなく、かいた汗を発散させる能力が高いことで有名な素材(ただし総じて値段は高い)。
この前後のパネルが組み合わさることで、「風を防ぎつつも保温し、汗を外に逃がして冷えることを防ぐ」ことを実現しているわけです。
ちなみに裏返すとこのようになっています。
- フロント裏
- バック裏
全体のパーツについてより細かく見ていきましょう。
ジップはガードがついているため、激しく動いて邪魔になることもなく、裏側が首に食い込んで痛くなることもありません。
ただこのALBERTINEは色が白なので、汗汚れが気になることがあるかもしれません。 www.cafeducycliste.com
こちらのカラーなら問題なさそう。私はネイビーとゴールドの組み合わせがいいな!と思ったのでこちらは選択しませんでした。
ちなみにダブルジップになっているため、適宜下部を開放して風通しを調節できます。 空気抵抗を抑えたい場合は、敢えて3-5cmほど開けることで前傾時の下腹部の布のたるみを無くすことができます。
胸ポケットは4.7インチのiPhone 6sがちょうど入るくらいの大きさ。 横はまだ余裕がありますが、縦がこれ以上大きくなると厳しいかも。
このポケットがあるかないかでジャケットのデザインの良し悪しがだいぶ変わるな、というぐらい可愛らしいポケットです。 下地のゴールドとは異なる色を使っているところがポイント高し!
バックポケットは大きめのものが2つ(タテxヨコが18cmx14cm)。素材が柔らかめかつ大きいので、ライディング中でもモノの出し入れしやすいです。 下部に小さな反射材も付いてますね。
右のポケットにはサイドジップ付きのポケットが。こちらは縦入れの右ポケットとはしっかりと分断された構造になっています。
何よりうれしいのはその大きさ(タテxヨコが12cm*14cm)で、私がいつもサイクリング用として使っているCHAMSのコインケースがつっかからずに入る大きさ。
[チャムス]財布 Eco Key Coin Case Black
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Raphaのレースラインであるプロチームシリーズは空気抵抗を意識してかポケットが小さめに作られており(最新モデルで変わってたらごめんなさい)、財布が入ることは入るけどつっかかってストレスがたまっていました。 寒くてあらゆる動作を最小限に済ませたい冬でもスムーズにモノが出し入れできるのは良いですね。
タイトに着れるサイズを選べば、ポケットの中のものもしっかりホールドされるので通常のライドで落とすこともないかな。 心配なものはジップ付きポケットに収納すればOK。
PRIMALOFTについて
冒頭で述べたPRIMALOFTについて説明しましょう。
ジャケットの後部にはメリノウール、前部には防風パネルを配置してあると言いました。 その防風パネルの裏側(胸部と前腕部分)に使われている素材こそがPRIMALOFT(プリマロフト)です。
"Feel the Performance"(「パフォーマンスを感じろ」)
簡単に言うと、羽毛のように温かいのに高い撥水性がある素材。 そして羽毛のように軽いところはそのまま。
「ダウンジャケット」の「ダウン」、つまるところ羽毛(正確にはガチョウやアヒルの胸の毛であり、希少)は大変温かい素材ですが、 一度濡れてしまうとその暖かさを発揮できなくなる、また乾きも悪いためスポーツウェアの素材には向きませんでした。
そんな欠点を解決するために人工羽毛として米国のAlbany International社によって開発された化学繊維がプリマロフトです。 様々な太さのマイクロファイバーを組み合わせることで羽毛と似た形状を生み出しているとのこと。
詳しい説明は上記のサイトを参照してください。
何よりも大きいのは「洗える」ことです。
通常、天然素材(動物の毛から作られた繊維)は水で洗ってしまうと縮んだり風合いを損ねるため、水洗いをしないほうが良い(むしろ不可)と言われています。
故に天然毛を使ったスーツやネクタイ、コートなどはドライクリーニングに出して、水ではなく有機溶剤(石油系)で洗うわけですが、プリマロフトは化学繊維なのでガシガシ洗えてしまうわけです(といっても生地自体の強さには限界があるのでおしゃれ着洗いすべきですが)。
よって家庭の洗濯で水溶性である汗汚れも落とすことができるため、プリマロフトはスポーツウェアにもピッタリというわけです(ちなみにドライクリーニングに出しているスーツは有機溶剤で洗うため汗汚れが落ちていないので注意。カビるよ。)。
ちなみにALBERTINEジャケットはMACHINE WASH(洗濯機奨励)奨励かつ単体で洗う(WASH SEPARATELY)の非奨励。 単体で洗うと洗濯機のあっちゃこっちゃにぶつかって毛玉ができるというわけですね。ちなみにウールは毛玉ができやすい素材ということでも有名です。 洗うときはおしゃれ着モードかつネットに入れて洗いましょう。
1st Fabric(全て化学繊維なので、おそらくPRIMALOFTが配置された前面部分を言っている)は以下のようになっています。
おそらくFillingがPRIMAROFTで、PRIMALOFTは「天然羽毛のもつ繊維構造を、さまざまな太さのポリエステル繊維を配合する独自の技術で再現」ということなので、組成の通りになっています。 ポリエステルとポリアミドの違いについては私もよく知らないので、今度詳しく調査してみようと思います。
続いて2nd Fabric(おそらく背面の発散性を高めた部分)は以下。
メリノウールにより保温性と発散性を高めていることは上で述べた通りです。その天然素材であるメリノウールと、化学繊維であるアクリル、ポリエステルを混ぜたような組成になっています。
アクリルはウールと同じで毛玉発生要因になる素材のようですが似た暖かさを持ち、故に混ぜられているといったところでしょうか(コストダウン?)。
ポリエステルについては柔軟性を高めるために入れているものと思われます。また適度に化学繊維を混ぜることによりハードユースや洗濯に耐えうる強度にしているのでしょう。
洗濯表示は以下の通り。
- 水温30℃を限度に洗濯機で洗える
- 漂白不可
- 110℃を限度に、スチームなしでアイロンが利用可能
- ドライクリーニング不可
- タンブル乾燥禁止
洗濯可能とはいえウールも縮むので、なるべく縮みにくい洗剤・洗濯法を使うとよいと思います。 自分がいつも使う洗剤はこちら。
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実際に着てみた感想
大変申し訳無いのですが、厳冬期のレビューをするといいつつも寒い日のライドを逃しているためちゃんとしたレビューができないのが現状です。 とりあえず現時点で試すことができたケースについて説明します。
5-10℃かつ無風でのライド(3時間程度)
シューズカバーをつけなくてもぎりぎりなんとかなる程度の寒さ。 インナー一枚(ジオライン)の上にALBERTINEで全く寒さを感じませんでした。むしろ走っている間は大変暖かく、止まっても変に汗冷えすることもなく暖かさが持続して大変快適でした。
0-5℃かつ風速9m/sの中で歩行(30分程度)
風速9m/sは時速に変換すると32km/hということで大体私が自転車に乗っているときの速度域になります。
こちらはALBERTINEの下に薄いシャツとインナー(ジオライン)を着用。結論から言うと、風を前面から受けた場合は全く冷たさを感じませんでした。防風機能がしっかりと働いていることが確認できました。
一方で後ろから風に吹かれたとき(ライド中はほとんどないですが)は少し寒さを感じました。やはり後ろが風通しの良い素材になっている故でしょう。
結論
やはり気になるのは冬場のヒルクライムですね。登りで一気に汗をかき、下りで汗冷えして寒すぎるというお決まりのパターンにどれだけこのALBERTINEが耐えられるのかという部分が決め手になるかと。 また長距離で汗が蓄積してきたときの劣化度も気になりますね。 ということでまだまだ試すべきことは多く結論は出せないですが、少なくともデザインと使いやすさだけ見るとかなり良いジャケットだと思います。
次回は同事購入したBELGIUMキャップについてレビューしますが、ヒルクライムでの検証が完了したら随時こちらに追記しようと思います。