ライブハウスでFor Tracy Hydeを撮影してきた 〜ライブハウスで明るく綺麗に撮影する方法〜 その②
前回
今回はライブハウスでの撮影テクニックについて説明していきますが、その前にライブハウス撮影に難しさについて説明したいと思います。
正直言って、ライブハウスの撮影は難しいです。
わざわざ記事にするのも自分で経験してそう感じたためです。
何故難しいかの結論を言ってしまうと「暗い」上に「被写体が動く」から。 今回はこれらの問題に対してどのように対応していくか解説していきます。
暗い
ライブ撮影を難しくする一番の要因はこれです。暗い。 写真撮影にとって一番重要なのは光です。
以下でも解説している通りです。
デジタルカメラにおいて、写真データはレンズを通した光がボディ内部の撮像素子に当たることで作成されます。
ゆえに、撮像素子に当たる光の量が少ないほど写真は暗くなってしまいます。
ライブハウスのステージはスポットライトで照らされるため明るいと思いきや、意外と暗いです。 比較するとこんな感じ。
晴天の屋外(日中) > 曇天の屋外(日中) > 蛍光灯が付いた屋内 > ライブハウス > 屋外(夜)
というわけで、結構暗いので撮影される写真もおのずと暗くなってしまいます。
単に暗いだけでなく、スポットライトの向きによっては逆光となり、アーティストの姿が真っ黒になってしまうこともしばしば(ライブ開始前のUnderwater Girl)。
夜明け前を連想する青一色、まさに何かが始まる「黎明」な雰囲気。 アーティストが自然体な一瞬を捉えているようにも見え、故に個人的に大好きな写真です。 しかし観てわかるようにやはりライブハウスは暗いですよね。
ではそういった環境でも明るく綺麗な写真を撮るためにはどうすればいいのか。 幸いデジタルカメラには暗い場所でも明るく撮れる機能があるので、順に説明していきます。
ライブハウスで綺麗に撮る方法①: F値を小さくする
以前F値について説明する記事を書きましたが、そこでは全く触れなかった重要な性質を説明します。 weekendcycler.hateblo.jp
上記の記事ではF値を小さくすると被写界深度が浅くなる、つまりピントを合わせた面の前後がボケやすくなると言いました。
それだけではなく、実はF値は「写真の明るさ」にも大きく影響します。
結論から言うと、F値を小さくすると写真が明るくなります。
詳しいメカニズムが省略しますが(実はここもかなり重要なのですが、、、語るのはまたの機会に)、レンズには絞り羽根という通過する光の量を調整するための機構があります。
この写真の左のレンズに注目してください。何故紅茶と一緒に撮影したかはつっこまないでください(わかる人にはわかる、今となっては懐かしい今日の紅茶シリーズ)。 レンズのガラスの内側に灰色の薄い板のようなものが重なっているのがわかると思います。これが絞り羽根です。
F値を小さくすると絞り羽根が開いて光の通過量が増え、 反対にF値を大きくすると絞り羽根が閉じて光の通過量が減ります。
写真で見ると一目瞭然、F値が1.8(最小)のときは絞り羽根が殆ど見えないぐらい引っ込んでおり、この状態が最も多くの光を通します。
F値最小ではレンズのガラス面が全開になっているため、このようなF値最小の状態を「開放」などと呼びます。
また最小のF値はレンズによって異なり、例えばこのレンズ (55mm単焦点レンズ)の最小F値はF1.8となります。
したがってF値が小さいほど明るい写真が撮れるレンズであり、その分値段も高くなります。
目安としては単焦点であればF値2.0以下、ズームレンズであればF2.8以上F4.0未満であればかなり明るい(良い)レンズと言えるでしょう(単焦点やズーム、焦点距離や画角についても当ブログでは全く解説していないため、そのうちやらないとイカンな。。)。
以上から、ライブハウスのような暗い場所で明るい写真を撮るには以下を満たす必要があります。
前回紹介した私の使用したレンズは最小F値がF2.8の望遠ズームレンズ。
ズームレンズの中では最高に明るいレンズということになります(つまり高い)。 これは別にドヤっているわけではなく、クライアントに良い写真だと思ってもらえるよう自分なりに死力を尽くした結果です。 ちなみにブリットポップもこれで撮影してます。私はU-1さんには敬意を払いまくっているのだよ!
ライブハウスで綺麗に撮る方法②: 置きピン+連射
F値を小さくする=明るい写真が撮影できることについて説明しました。 しかしここには大きな落とし穴があるのです。
忘れてはならないF値の重要な性質、それはF値を小さくするとボケる範囲が広がるということ。 そしてライブハウス撮影(というかライブ)のもう一つの問題点、それは「被写体、つまりアーティストが激しく動く」ということ。
これが意味するところは一つ、F値が小さい状態でライブハウスの撮影をすると「ピントがめちゃくちゃ合いにくい」ということ。
被写界深度が浅いため、ピントを合わせて撮ったつもりがシャッターを切った瞬間にアーティストが動いてピント面から外れ、結果としてボケた写真になってしまうという問題があります。
図にするとこんな感じ。
シャッターを切る直前にはピントが合っていたのに、シャッターボタンを押してからシャッターが切れるまでの間にピントが合う面から被写体がズレてしまい、ボケた写真になってしまう。
重要な部分(人間でいうと顔、もっと言うと瞳)にピントが合ってさえすれば、それを観る人は他のボケたところは案外気にならないものです。
したがって、写真撮影においては(ライブ撮影に関わらず)いかに被写体の重要な部分にしっかりとピントを合わせるかが大事になってきます。
それを解決してくれるのが「置きピン」と「連射」です。
「連射」とは、シャッターボタンを押している間写真を連続で取り続けてくれる機能です。 最近はiPhoneのシュババババババみたいな連射音を耳にする機会も多いので、だいぶ身近になったのだと思います。
そして「置きピン」、こちらは聞き慣れないワードだと思います。 「置きピン」とは、「ピント」を「置いておく」こと。
もっと言うと、被写体が来る場所を予想して、その場所にMF(マニュアルフォーカス)でピントを合わせておく技術のことです。 したがって、「置きピン」しておいて、被写体が通り過ぎる瞬間を狙ってシャッターを切れば、見事ピントの合った写真が撮れるわけです。
いやいやちょっと待てよと。そもそも被写体がちょうどその場所に来る一瞬のタイミングでピントが合わせられるわけないだろと。
その通りです。そこで「置きピン」と前述した「連射」を組み合わせるわけです。
やり方は非常に簡単。
「置きピン」でピントを合わせておいて、後はひたすら「連射する」。つまり「数撃ちゃ当たる」作戦です。
例えば、自転車レースやマラソンなどで走っている人を前から撮るケースを例に上げてみましょう。 この場合、被写体である選手は手前から自分に向かって近づいてくることになります。
なので、被写体が自分より十分遠い位置にいるときに、シャッターを切りたい場所、つまり自分と被写体の間の任意の位置にMFでピントを合わせ(置きピンし)」、 「置きピン」した場所よりも少しだけ手前の位置に被写体が来たあたりから「連射」を開始し、 「置きピン」した場所よりも少しだけ自分側に近づいたあたりで「連射」を止める。
絵で表現するとこんな感じ。
このようにすると、撮影された何枚かの写真のうち1枚くらいはしっかりと合うべきとこにピントが合った写真が含まれている、というわけです。 このときカメラはしっかりと固定するように。写真がブレてしまうため。
さて、このように思われた方も多いのではないでしょうか?
「そもそもライブ撮影じゃどこにアーティストが動くか予測できない…。」
これもまた然り。私がライブ撮影で置きピンするときは、とりあえず被写体にピントを合わせた状態から連射を始めます。 割と前後に繰り返し動くことも多いため、動きがそこまで大きくないタイミングを狙えば、被写界深度が浅かったとしてもこの方法で大体上手くいきます。 というか、動きの少ない瞬間をなるべく狙って撮っています。
ぜひ動体撮影の際は「置きピン」と「連射」を試してみてください。
我々カメラマン(というほどの者でもないけど)が撮った写真は、大抵ピントが合うべきところにしっかり合っていますよね。 今回説明したように、それは数撃ちゃ当たるによって撮られた大量の写真から厳選したものに過ぎないわけです。 今回のフォトハイの撮影でも、たった30分間に連射をし続けてゆうに500枚を超える撮影をしています。 しかしそのうち見せられると思ったのはたった20枚程度。
そんなほんの一握りの奇跡を願ってシャッターを切り続ける、それがカメラの醍醐味とも言えると思います。
そしてその一握りを他の誰かに喜んでもらえたときこそ嬉しい時はありません。 皆さんもぜひそんな一枚を撮ってみてください。
さて、今回はここまで。
今回何枚か写真を乗せましたが、実は今日紹介したテクニックだけではまだライブハウスで綺麗な写真を撮るのに十分とは言えません。 次回も引き続き説明していきたいと思います。