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【写真撮影講座 vol.2】 F値について説明してみた

前回はカメラで写真が撮れる仕組みについて説明しました。 重要なのは、撮像素子(センサー)に光をあてることで写真が撮影されるということ。 撮影の世界ではこれを単に「露出」とか「露光」と言います。

このセンサーに光を当てる「露出」という行為は単純なようで実に奥深く、 光を当てる時間をほんの一秒変える、光の量をほんの少し変えるだけでも出来上がってくる写真の見た目は変わるため、とてもシビアな世界でもあります。

逆に「露出」を手なづけて、光を思いのままにコントロールすることさえできれば、 自分の思い通りの写真が撮れるようになるというわけです。

露出を司る三要素

では思いのままに露出をコントロールするにはどうすればいいのか。 カメラには露出をコントロールするための三つのパラメータが存在します。

それは、「F値」「シャッタースピード」「ISO感度」と呼ばれる3つのパラメータ。 本講座ではこれらのパラメータはどういったものなのか、どのように設定すべきなのか、 なるべくユーザーフレンドリーな形で一つずつ解説していきたいと思います。

2回めの今回は「F値」について説明します。

F値とは

F値とは、簡単に言うと「ボケの度合いを調整する数値」です。

カメラのなんたるかを知っている人から見たら今すぐ殴りたくなる説明だと思いますが、 個人的にはこれぐらいがわかりやすいのかなと笑

正確には「ピントの合う範囲を決める数値」になります。

ピントとボケについて

ここで「ピント」と「ボケ」について確認しておきます。 これらは対になる概念で、

  • ピントが合っている→被写体に焦点が合っており、輪郭がくっきりと見える
  • ボケている→被写体に焦点が合っておらず、輪郭がぼやけている

ということ。 以下は両方共ぬいぐるみを撮影した写真ですが、

こちらは盾の文字がくっきり見えるので被写体であるぬいぐるみには「ピントが合っている」が、一方で背景は「ボケている」写真 20181121-DSC00690

こちらはぬいぐるみと背景が全体的に輪郭がぼやけているため全てが「ボケている」写真 20181121-DSC00691

になります。

たまに聞く「ピンぼけ」という言葉は、「”ピン”トが合っていないために”ぼけ”ている」状態を指します。

ピントは面で合う

ピントは面で合います。 これはどういうことかというと、カメラで被写体を撮影したとき、ピントのあう部分(輪郭がくっきり見える部分)は カメラから一定の距離にある平面になるということです。

例えばカメラを使って目の前に立っている鳥の目にピントを合わせて撮影したケースを考えます。 スマホのカメラ機能を起動し、画面で鳥の目をタップしてフォーカスをあわせてから撮影ボタンを押すイメージ(スマホのカメラはタップしたところにピントが合う)。

この撮影シーンを横から見ると以下のようになります。

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ピントは面で合う

鳥の目を上下に横切る点線がひかれていると思いますが、これがピントの合う平面です。 したがって、平面より前と後ろはボケることになるので、 このまま撮影すると鳥の嘴や背景はボケた写真が撮れます。

このピントの合う平面の位置を前後させること行為が「ピント合わせ」になります。

AFとMF

カメラでピントを合わせる方法には大きく分けて2つの方法があります。

  • AF(Auto Focus): オートフォーカス。面の位置の決定をカメラに委ねる方式。多くのカメラはシャッターボタンを半押し(半分だけ押す)することで合焦(焦点合わせ)する。
  • MF (Manual Focus): マニュアルフォーカス。面の位置の決定を撮影者が決める方式。レンズに付いているピントリング(回せる部分)を回すことで合焦する。

AFでは、シャッターボタンを半押しするとカメラ自身がエッジ検出(明暗が鋭敏に変化している部分を検出する箇所を特定するアルゴリズム)を実施しピントの合う面を決めてくれます。スマホの場合は、タップした箇所の付近でエッジ検出してピントを合わせる方式になっています。

逆にMFでは撮影者がカメラに付いたリングを回して、ピントが合う面を自分で選びます。

AFとMFの使い分け

ではどのようにAFとMFを使い分けるのか?

AFは時間がないときやこだわらないときに使います。 というのも、AFはシャッターボタンを半押しするだけでピントが合うのでピント合わせに時間がかからない。

一方で細かい調整はできなかったり、どこに合うのかわからないというデメリットがあるので、例えば人物のポートレート撮影で瞳にしっかりとピントを合わせたい、というようなシーンには不向きです。 逆にストリートスナップや瞬間を捉えたいときには向いていると言えるでしょう。

MFはピント合わせに時間がかかる一方、細かい調整ができます。 なので動かないもの(静物や風景)の撮影や、しっかりと時間を取ってこだわったピント撮影をしたいとき(前述のモデル撮影など)に向いてます。

ピント合わせを肌で感じてもらうためにも、今回の講義の復習ではぜひ手持ちのカメラをMFに設定してみてください。

F値によるピントの合う範囲の変化

冒頭でF値は「ピントの合う範囲を決める数値」であると言いました。 F値を変更すると何が起こるかというと、ピントの合う面が伸び縮みします。

例えば、F値を大きくすると、以下の図のようにピントが合う面(点線)を中心にピントが合う範囲が前後に伸びます。

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F値を大きくするとピントが合う面が伸びる
先程の図では鳥の目がある平面でしかくっきり写っていなかったのが、くちばしや背景までくっきり映るような写真が撮れるようになります。

逆にこの状態からF値を小さくすると、以下の図のようにピントが合う面(点線)を中心にピントが合う範囲が前後に縮みます。

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F値を小さくするとピントが合う面が縮む

したがって、最初に説明したピントが薄い平面で合っていたような図はF値が最小の状態を表します。 このピントが合う範囲のことを被写界深度と呼びます。 なのでF値は「被写界深度を調整する値」というのが最も正しい表現になります。

面からの距離によりボケの度合いの変化について

F値によって決まる「ボケている範囲」のボケ度合いが全て一律かというと実はそうではありません。

実際は以下の図のように、最もピントの合う面(点線)から前後に離れるほどボケが強くなっていくようになっています。

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ボケのグラデーション

背景がめちゃくちゃボケた写真を撮るには?

では、よく見る背景がめちゃくちゃボケたような写真を撮るにはどうすればいいのか。 これまでのテキストをしっかり読み込んできたならわかるはずです。

ヒントは以下。

  • ピントが合う面から遠くなればなるほどボケるが強くなる
  • F値が小さくなるほどボケの範囲が広くなる

正解は、「F値を最小にし、被写体から背景をなるべく遠ざけて撮影する」です。

正確にはレンズやカメラによってボケの強さが異なるのですが、 少なくとも全てのレンズにおいて共通する事項であるため、自分が持っているカメラ・レンズで最も強いボケを生み出す場合は上記のような設定で撮影してみてください。

F値による表現

F値を調整することで、写真に様々な表現を加えることができます。 ここでは私がよく使う表現をいくつか紹介します。

表現①: とろける後ろボケ

20180716-DSC01667-4 20180429-DSC09786-5 図のように凄まじいボケにより背景が溶け合い、もはや何が後ろにあるのかわからないレベルで渾然一体となり、被写体を際立たせる素晴らしい背景を作り出すというもの。

被写体に焦点を合わせ、先程「背景がめちゃくちゃボケた写真を撮るには?」で紹介したように F値を最小にし、被写体から背景をなるべく遠ざけて撮影するようにします。

このときにボカす背景は色が多すぎないことがポイントです。 一番シンプルなのは蓮の写真のように一色でまとめる。多くても二~三色がよいでしょう。 あくまで主役は被写体である花なので、後ろがごちゃごちゃしすぎていると目移りしていします。

一色にする場合は被写体の補色を背景に選ぶ、複数色使う場合はボケた状態できれいな模様になるように意識するところから初めて、 自分の色を出していくのが良いと思います。

表現②: 前ボケ

ピントが合う前後がボケることを利用し、図のように被写体の手前に敢えて別のもの配置することでボケさせ、 それによって被写体に霞がかかったかのような効果を作り出し、全体の雰囲気に暖かさやミステリアスさをプラスするというもの。 こちらもボケを薄くする(手前に何があるのかわからないほどボケさせる必要がある)ためにF値は最小付近で撮影してください。

以下の例では、被写体の手前側に黄色の葉の茂みを配置することで薄い黄色のボケを作り出し、暖かい雰囲気を作り出しています。 20180716-DSC01578

一方で、こちらは生い茂った葉を手前に置き、ボケの少ない部分にあじさいを配置してシャッターを切ることで、隙間から覗いているようなミステリアス感を演出しています。 20180616-DSC09835

表現③: 玉ボケ

点光源(街灯やイルミネーションの光など)を背景に配置し、ボケさせることで玉状のボケを作り出し、背景に綺羅びやかさや鮮やかさを加える撮り方です。 前の2つと同様に、こちらもF値を最小付近に設定して撮影してください。玉はF値を小さくするほど大きくなる(光のボケた結果のため)ので、玉が大きすぎると思ったときは一度構図を決めたあとでF値を調整することで大きさを自分のイメージと合わせてください。

20181124-DSC00724-2 DSC03318

表現④: パンフォーカス

F値の調節による表現はボカすだけではありません。むしろ全くボカさないような写真を撮影する機会のが多いかと思います。 例えば風景写真などは手前から遠くまでしっかりとピントが合わせるのが基本です。 それにより遠近感が強調されるため、自然風景であれば視聴者に自然が持つダイナミックさを感じさせることができます。 また人工構造物であれば建物の持つ立体構造の輪郭がしっかり残るため、よりシャープで人工的な印象を与えることができます。

これまでとは真逆でF値を大きめに設定し、構図の最も奥にピントを合わせて撮影します。 感覚的にコンデジであればF3.5, 一眼なら最低F9.0くらいのF値を設定したいところです。 撮影モードをオートにしておくと、周りの明るさに合わせてカメラ側が勝手にF値を小さく設定してしまうことがあるので、 必ず自分で設定するようにしてください。

5月の残雪の浄土平。雄大な自然をダイナミックに残すには被写界深度を深めにして奥にピントを合わせる。 DSC09719

ヴェネツィアの大運河をリアルト橋からコンパクトデジタルカメラで撮影。奥の建物までしっかりと輪郭が残っており、人工物の存在感が強調される。 20140226-DSC01596

本節ではF値による写真表現の変化について説明しました。 F値を変えることで写真の雰囲気が大きく変わることがわかったと思います。 これが自分の手でF値を調整することの醍醐味ですので、ぜひ皆さんも自分の心の中にあるイメージを写真に投影できるよういろいろな設定で試してみてください。

絞り優先オート

これまでの講義を踏まえ、ぜひともF値とピントを調節しながら色々な写真を撮影していただきたいですが、 その前に、カメラのモードを「絞り優先オート」、フォーカスモードを「MF」に変更してみてください。

冒頭で「F値」「シャッタースピード」「ISO感度」という三つの露出パラメータについて説明しましたが、 これらを全てカメラ側が自動で決めてくれるのが「プログラムオート」というモード。

一方で絞り優先オートとは、F値以外のパラメータをカメラがよきにはからって決めてくれるモード。 代わりにF値は撮影者が決めることになります。

したがって、このモードとMFを合わせて利用するとF値を変更した場合の写真の変化を簡単に知ることができます。 プロもこの設定を使うことが多いそうです。というのも、やはりF値を変えることによる写真への影響のはかなり大きく(前節の通り)、まずはF値をしっかり決めるところから始める、ということなのかもしれません。

長くなりましたが今日はここまで。 次回は「シャッタースピード」について説明します。