メリノウールについて調べてみた vol.1
やっべ…夏ウェアのレビュー記事書くつもりがいつの間にか夏終わってたわ…
数ヶ月前に7meshの夏用半袖ジャージ三種のうちの一つであるQUATUM JERSEY MEN'Sについて紹介しました。
次は残り二種のうちの一つであるASHULU MERINO JERSEYについて説明しようと思っていたのですが、その前に。
このジャージはASHULU "MERINO"の名の通り、メリノウール製です。
メリノウールといえば当ブログでも何度か紹介していますね。
季節外れの夏用ジャージの説明だけで終わってしまうのもどうかと思うので、まずジャージの話をする前にこれからの季節も大いに活躍するメリノウールについてもしっかりと説明していきたいと思います。
メリノウールとは
羊毛から作られる天然繊維を「ウール」と言います。
中でもメリノ種と呼ばれる羊から取れる毛で作られるウールを「メリノウール」と言います。
天然繊維とは、人工的に作られたものでない繊維を指します。
天然繊維には以下の3つがあり、メリノウールは羊毛から生成されるので動物繊維に属します。
- 動物繊維
- 鉱物繊維
- 植物繊維
他の動物繊維だとカシミアヤギの毛から生成されるカシミアなどがありますね。
そして木綿や麻などは植物繊維、一時期話題になっていた石綿(アスベスト)は鉱物繊維に属します。
一方で、スポーツウェアの素材として広く使われているポリエステルなど、アルコールなどから化学的プロセスにより製造される繊維を化学繊維と呼びます。
前回紹介したQUANTUM JERSEYはポリエステル100%のジャージでしたね。
メリノウールの特徴
ではメリノウールの特徴、利点と欠点について見ていきましょう。
メリノウールの利点
まずは利点から。
利点① 断熱性が高い
断熱性が高いというのはつまり、熱移動・熱伝達を減少させる能力が高いということ。
これをサイクルウェアに当てはめるとどうなるかというと、ウェアの生地につつまれた中の熱を外に逃さず、一方で生地の外側の熱を遮断する能力が高いということになります。
この断熱性の高さはメリノウールの繊維の形状によって発揮されるものです。
メリノウールの繊維は以下のように一本一本が縮れた形状になっています。
その縮れ(クリンプ)が複雑に絡まり合い形成された空間にたくさんの空気を含むことができます。
空気は比熱が大きい、つまり温度を変えるのにエネルギーを多く必要とします。 もっと簡単に言うと熱しにくく冷めにくいため、接するものによって簡単に温度を変えられないということになります。
故に断熱性が高くなるのです。
よく寒い地方では寒さ対策として窓を二重にしていますよね?あれが寒さ対策足り得るのは、二重になった窓と窓の間に空気を含ませることで断熱の効果を生み出しているということです。
メリノウールのこの断熱性の高さは、夏は外の暑さを防ぎ、冬は寒さを防ぐといった効果をもたらします。
しかしメリノウールのこの断熱性も常に発揮されるわけではなく、NGパターンが存在します。
熱は物体を構成する分子が運動することで伝わります。 したがって、空気が激しく動き回るような状態では逆に断熱性が著しく低下してしまうということにほかなりません。
例えば、メリノウールのウェアを外側に着て自転車を漕いでいる状況はまさにそのNGパターンに該当するわけです。
じゃあメリノウールの断熱性の高さはサイクリングには活かせないないのでは。。。と思うところなのですが、メリノウールの上に防風ウェアを纏うことで、メリノウール部分への空気の流れをシャットアウトすることができます。
したがって、冬活用するときはインナーとして利用することで効果を発揮する素材であるということが言えます。
重ね着する場合は運動中にかいた汗が溜まって蒸れてしまうので、防風ウェアとしてはGORE-TEXなどの透湿系の素材を纏うことで軽減したいところです。
利点② 通気性が高い
メリノウールは非常に通気性が高い素材です。
一見断熱性と相反する性質ですが、繊維の構造を考えると合点が行きます。
断熱性の項で説明したように、メリノウールの繊維は1本1本が縮れており、それ故に生地に多数の空間が存在します。
これはつまり生地に微小な穴が多数空いているということに他ならず、目に見えないレベルのメッシュ構造のようになっているんですね。
したがって風通しが良くなります。
これをサイクリングのユースケースに当てはめると、止まっているときは断熱し、走っているときは(断熱性が失われる代わりに)風を通すということになります。
故に夏場でも使っていける素材になっていると言えるでしょう。
ただし止まっていたとしても風が吹いているケースにおいてはメッシュ構造により通気するため、やはり断熱性の項でも述べたように寒いときのアウターとしては不適切と言えます。
利点③ 臭いがつきにくい
これはメリノウールの驚くべき利点の一つであり、最も強く実感できるポイントだと思います。
サイクリングのユースケースに当てはめると、長時間メリノウールのウェアを着て汗をたくさんかいても臭くなりにくいということになります。
メリノウールが臭くなりにくい理由としては、素材が持つ免疫機能によって臭いの発生源となる細菌が育ちにくい環境となっているためです。
これらのメカニズムを語るには、そもそも汗の臭いがどのように発生するかというからしなければなりません。
汗だけでは臭いにはなりません。
汗と一緒に流れ出た皮脂をバクテリアが分解する際に生まれる排泄物が臭いの発生源となります。
バクテリアは以下のような環境で繁殖しやすいと言われています。
- 湿度が高い
- 温度が高い(36-37℃)
- 栄養豊富(エサとなる皮脂、垢などが豊富)
したがって、人間の肌に接している衣服や靴などは特にバクテリアが繁殖しやすい環境になっているわけです。
特に靴なんかは湿気が溜まりやすいですし、洗う頻度も少ないのでエサが無限供給されるような最悪の環境と言えるでしょう。
通常、人間含め生物の肌には外部から侵入してきた細菌を無力化する免疫機能があります。
羊の皮膚もそれに漏れず免疫機能があり、それは皮膚だけでなくそこから生えた毛にも及びます。
羊毛から作られたメリノウールはその免疫機能を引き継いでおり、その抗菌作用によってバクテリアなどが育ちにくい環境ができるのです。
したがって、汗や皮脂を吸収・付着しても臭いが残りにくいというわけです。
この「防臭効果の高さ」は先日の乗鞍でも遺憾なく発揮され、その効果を強く実感することになりました。
荷物を減らすためにトップスは替えなし、メリノウール製のジャージ一着で挑みました。
2,000mほどヒルクライムし散々汗をかいた後、洗わずに一晩ハンガーに干しておきました。 結果、翌日の朝全く臭くなかったので驚きました。
利点④ 水を弾き、湿気を吸収する
水を弾き湿気を吸収すると聞くと一見矛盾しているように聞こえますが、水は液体、湿気は気体です。
つまり液体は弾き湿気は吸収するということになります。
これもウールという繊維が持つ構造に起因する特性です。
ウールの表面には「スケール」といううろこ状のものが並んだ形状になっており、これが水を弾きます。
一方でウール内部は保水しやすい性質を持ちます。
このスケールは開閉することで液体は通れないが湿気は通れるくらいの細かい孔が現れ、これによる湿気のみを内部に吸収するような仕組みになっています。
メリノウールは水を弾くが故に、小雨程度でも身にまとっていける、そして汗を含んだ水溶性の汚れがつきにくいという利点があります。
一方で湿気を吸収するため、皮膚呼吸によって体表から出た汗が液体に変わる前に吸収してくれます。
このとき、メリノウールの繊維の表面は水を弾くため、常に皮膚に接している部分は「乾いている」ため(湿気は繊維の内部に吸収される)、汗をかいてもサラッとした快適さが持続します。
利点⑤ 肌触りが良い
さて、メリノウールでよく言われる特徴の一つとして肌触りの良さがあります。
が。
なぜメリノウールの肌触りが良いかという科学的な根拠を示した記事は見つからなかったので、少し仮説を含んだ説明をしていきたいと思います。
一般的に繊維が細いほど肌触りは良くなります。
以下の図のように、繊維が細ければ細いほど肌に触れる部分の凹凸が少なくなるため肌触りがよくなるという仕組みです。
繊維が太い場合
繊維が細い場合
ではメリノウールの繊維の太さはどの程度なのかということになりますよね。
メリノウールは太さによって等級が分けられており、細いほど高級になっていきます。
太さ(ミクロン) | 名称 |
---|---|
< 15.5 | Ultrafine Merino |
15.6 - 18.5 | Superfine Merino |
18.6 - 20 | Fine Merino |
20.1 - 23 | Medium Merino |
> 23 | Strong Merino |
さて、比較は最悪条件でやるべき。
ということで、メリノウールの中でも最も太い、一番下のStrong Merinoを見てみましょう。
Strong Merinoの太さは「23ミクロン(1/1000mm)より太い」となっているのがわかります。
果たしてこれは細いのか?ということになるわけですが。。。
調べてみると全く細いなんてことはないことがわかりました。
せっかくなのでQUANTUM JERSEYに使われているポリエステルの太さと比較してみましょう。
ポリエステルは化学繊維なので太さをある程度調節可能であり、それはもう使用用途によってパスタのように色々な太さがあります。
ここではたまたま見つかったユニクロのエアリズムの記事を参考にしてみましょう。
エアリズムに使用されているポリエステルは8マイクロとかなり細いことがわかりました。
Strong Merinoの約1/3の太さになります。めちゃくちゃ細いですね。
先程言ったように、化学繊維の特徴として(もちろん限界はあれど)ある程度太さを自由に調節できるというものがあります。
それによってポリエステルも8マイクロとかなり細くできるレベルまできているということですね。技術の進歩はすごい。
したがって繊維の太さだけの議論では「メリノウールの肌触りの良さ」を説明できないことになります。
じゃあネットに溢れる多くの記事は誤りなのか?ということになりますが、流石にこれだけ言われているんだから何かあるだろと思いたい。
実際に着てみても肌触り良いという実感もあります。
というわけでここからは素人の仮説になるのですが。。
メリノウールの肌触りの良さは、保温性と肌から水分を遠ざける性質によるのではないかと。
先程説明したように、メリノウールは表面がうろこ状になっているため撥水性がある一方、蒸気は吸収して繊維の内部に保水するという性質があります。
これによって、生地のうち肌と接する部分には水分はたまらず、比較的乾いた状態が維持されるため肌触りが良い状態が維持される。
したがって濡れた場合はポリエステルよりも相対的に「肌触りの良さ」を感じるということです。
またメリノウールは内部に溜め込んだ空気による断熱効果により、着た直後からほのかな暖かさを感じます。
これも相まって肌触りの良さを感じるのではないでしょうか。
まとめ
メリノウールの利点をまとめるとこんな感じでしょうか。
- 通気性があるため夏にアウター(トップス)として使っていける
- 保温性(断熱性による)が高いので冬のインナーに最適
- 激しく運動して汗をかいても臭いがつきにくい
- 表面が撥水するので水溶性の汚れがつきにくい
- 吸湿するが、表面は撥水するので汗をかいても快適性が持続
- 保温性と撥水・吸湿性によるり肌触りが良い
ここまで見ると夢のような素材ですが、メリノウールには欠点も存在します。
次回はメリノウールの欠点を語りつつ、具体的なユースケースについて説明していきたいと思います。