メリノウールについて調べてみた vol.2
今回もメリノウールについて説明していきます。
前回はその利点について説明しました。
メリノウールの利点をまとめると以下のようになります。
- 通気性があるため夏にアウター(トップス)として使っていける
- 保温性(断熱性による)が高いので冬のインナーに最適
- 激しく運動して汗をかいても臭いがつきにくい
- 表面が撥水するので水溶性の汚れがつきにくい
- 吸湿するが、表面は撥水するので汗をかいても快適性が持続
- 保温性と撥水・吸湿性によるり肌触りが良い
今回はメリノウールの欠点と、利点・欠点を踏まえたユースケースについて説明していきたいと思います。
メリノウールの欠点
まずはメリノウールの欠点から
欠点① 乾きにくい
メリノウールはスポーツウェアとしては比較的乾きにくい部類に入ります。
メリノウールの話をする前に、まずは速乾性に定評のあるポリエステルについて説明します。
ポリエステル製ウェアが乾きやすい理由
ポリエステルが速乾である大きな理由は、繊維自体が疎水(ほとんど吸水しない)する性質であるためです。
ポリエステルはほとんど水を吸いません。極端に言えば、常に繊維自体が乾いているようなものということですね。
実際、常にサラサラしていて濡れているように感じないことが多いのではないでしょうか。
しかしこのままではポリエステルのウェアを着た内部の汗は乾かないことになってしまいますが、実際そんなことはないですよね?
それは、生地の編み方が大きく関係しています。
繊維自体は水を吸わなくても、繊維の編み方によって吸水しやすい生地を作ることができるということです
上記のページにあるように、東レは「毛細管現象」を利用することにより、生地に吸水性を持たせることに成功しています。
毛細管現象とは、液体に細い管(毛細管)を入れると、液体が管の中を上昇する物理現象のことを言います。
東レでは生地を多層構造にし、それぞれ異なる密度の生地を利用することによって、肌と生地の間にある水分(汗)を徐々に外方向へ上昇させていくような仕組みを実現しています。
つまり、肌に近い部分は密度を粗く、外に近づくにつれて密度を細かくしていくことで多段に毛細管現象を発生させ、迅速に水分を外に出すことができるということです。
まとめると、ポリエステル製のスポーツウェアの急速速乾は繊維の疎水性と生地の「毛細管現象」による、ということになります。
メリノウールが乾きにくい理由
前回の記事で説明したように、メリノウールは保水しやすい性質を持っています。
その仕組みについてもう少し詳しく説明しましょう。
表面のスケール(うろこ形状)が撥水する一方で、スケールの隙間にある細孔から吸湿します。
スケールの内部はオルソ・コルテックスとパラ・コルテックスという2つのタンパク質により構成されており、この2つのうち吸水性の高いオルソ・コルテックスがスケールの間を通ってきた湿気を保水します。
(ちなみにウールはこれらのコルテックスが隣り合わせに張り付いたバイラテラル構造をしており、吸湿性の高いオルソ・コルテックスが空気中の水分を吸収し膨張、その左右差によって縮れ構造が生まれます。)
つまり繊維自体が水分を吸収するため、速乾性という観点においてはどれだけ生地を工夫してもポリエステルには敵わないということになります。
例えば夏のヒルクライムなど、汗を大量にかく状況では延々とこの細孔から吸湿してしまいます。
なので単位時間あたりの発汗量が繊維内部のオルソ・コルテックスが吸収できる貯蔵量を用意に超えてしまうため、吸湿に乾燥が追いつかずに濡れたままになってしまうことになります。
したがって、そのままダウンヒルすると持ち前の通気性が汗冷えを引き起こしてしまいます。
故にメリノウールは大量発汗するようなケースには向かないと言えるでしょう。
とはいえ、吸水しても表面が撥水するため、肌触りの良さがある程度持続するのがウールの魅力ですね。
欠点② 耐久性に難あり
ウールは以下の二点において耐久性に難ありと言えます。
- 毛玉が出来やすい
- 虫に食われる
毛玉ができやすい
ウールは毛玉が出来やすいです。
そもそも毛玉はなぜできるのか。
着用している間の擦れなどにより糸が毛羽立ち、その毛羽が絡まりダンゴ状になったものが毛玉です。
ウールの繊維表面はギザギザのスケール(うろこ形状)になっているので引っ掛かりやすく、その分毛玉もできやすいといういことになります。
このメリノウール製のジャージも5回程度の着用で表面がかなり毛羽立ってきました。
洗濯時にネットに入れて、おしゃれ着モード(洗いと脱水が優しいモード)で洗っているのにも関わらずです。
自分の場合カメラをたすき掛けにしたりと結構ハードに使っているからというのが理由な気もしますが。。。
虫に食われやすい
メリノウールは虫に食われやすいです。
ウールはメリノ種という羊の体毛から作られる繊維なので動物性繊維です。
虫は動物性繊維を好むので、メリノウールは格好のごちそうというわけです。
一方でポリエステルなど石油系の化合物を合成して作られた繊維は虫のエサにはなりません。
私達人間が石油を食べないのと同じですね。。。
というわけで、以上二点の性質によりメリノウールは耐久性という観点においては難あり、扱いに気をつけないといけない繊維であると言えます。
サイクリングにおいてメリノウールが活きるユースケース
もう一度メリノウールの利点・欠点をまとめてみましょう。
利点
- 通気性があるため夏にアウター(トップス)として使っていける
- 保温性(断熱性による)が高いので冬のインナーに最適
- 激しく運動して汗をかいても臭いがつきにくい
- 表面が撥水するので水溶性の汚れがつきにくい
- 吸湿するが、表面は撥水するので汗をかいても快適性が持続
- 保温性と撥水・吸湿性によるり肌触りが良い
欠点
- 乾きにくく、汗をかきすぎると汗冷えを引き起こす
- 耐久性に難があるため、扱いに気をつけなければならない
- 毛玉が出来やすい
- 虫食いになりやすい
以上の利点・欠点を踏まえると、どのようなユースケースにマッチするか考えてみました。
少し肌寒い季節のライドのトップスとして
メリノウールは汗をかきすぎると吸湿に乾燥が追いつかなくなり汗冷えしてしまいます。
したがって、夏の終わりから冬、冬の終わりから春の終わりといった少し肌寒く発汗量が抑えられる季節にトップスとして着用するのが良いと言えるでしょう。
メリノウールが持つ断熱性の高さによる保温効果が期待できます。
ダウンヒルなど少し冷える場合はウインドブレーカーを着用することでメリノウールの保温性を活用できるようにするのがよいでしょう。9月頭に登った乗鞍でもおおいに活躍してくれました。
メリノウールは汗をかいても快適性が保たれるので、ロングライドのような平均してあまり汗をかかないような長時間のライドにも最適だと思います。
寒い季節のインナー・中間着として
メリノウールが持つ断熱性をフルに活かすために、真冬のインナーとして活用
インナーとして活用するときの注意点は以下になります。
- 吸湿・保水による汗冷えを防ぐため、メリノウールに染み込んだ汗を逃がすようにする
- 通気による断熱効果の消失を防ぐため、メリノウールに風を当てないようにする
例えば以下のような組み合わせでしょうか。
メリノウールと接する部分には、ポリエステル製のジャージなど吸水・速乾系の素材のウェアを着用し、その上からGORE-TEXなどの防風・透湿のジャケットを羽織ることで外からの風をシャットアウトすると同時に、ジャージを通して上がってきた水分を透湿することで内部の環境を快適に保つ、という作戦です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回の記事を書こうとしたモチベーションは、私自身普段からその「良さ」を感じていたメリノウールについて書かれた記事にどうも納得感が得られないものが多かったため。
正直言ってこの記事もそういった記事の断片の寄せ集めみたいになってしまったところはあるのですが、多少は納得感のある内容になったのではないかと思っています。
ちょうど中途半端な気温の時期に突入している今こそメリノウールの真価が問われる時、ということで色々試していけたらなと思っています。